大西洋の向こう側に位置し、重厚な歴史を持つヨーロッパの影響を大い受けながらも、北米大陸という新しい環境で独自の文化や思潮を創り、逞しく生きた人々の軌跡を辿ることに、歴史のダイナミクスとロマンを感じます。初期のアメリカ文学作品を読むと、創世記のアメリカが抱えた悩みは、現代もなおアメリカの課題として残っていることがわかります。また推理小説の父としても広く知られるポーは、日米の現代文学だけでなく、映画や音楽などの現代アメリカ文化への影響力も大きい作家です。時にはキャノン作家として、また時にはサブカルチャーの祖として、文学史および文化史の中で語られてきた彼とその時代を俯瞰的に検証することは、現代を生きるわたしたち自身を知る手がかりを与えてくれるような気がします。

はじめてポーの本を手に取ったのは小学生の頃だったと思います。児童向けの本が並ぶ図書館の片隅にひっそりと置かれていた世界文学全集の少し大人びた装丁に魅かれてページをめくりました。当時大好きだったドリトル先生シリーズやナルニアの物語とは少し異なる、不可解で不条理な異次元世界にすっかりはまり込んでしまいました。そしてその後は、ポーと同時代のアメリカン・ルネッサンス期の作家やゴシックの伝統に連なる現代作家に関心を寄せるようになり、現在に至ります。