- 教員氏名
- 嵩 宣也 講師
- 専門分野
- 宗教学、真宗学(真宗教学史)
浄土思想の英訳の歴史を研究しています。明治・大正期に登場する英文仏書は、英語という共通言語を通じて、ヨーロッパとアジアが交差する知的空間となりました。しかし、その時代状況には注意が必要です。というのも、当時は「西洋が先進的で、日本を含むアジアは遅れている」という考えが強く存在していたからです。このような非対称的な力学が作用する知的空間で、真宗教義が英語にどう翻訳されてきたのか、その過程を研究しています。
視点が変われば世界が変わる。他者の視点から物事を考える点に面白さがあります。日本の仏教研究は1000年以上の歴史を持ちますが、西洋世界における仏教研究の歴史はおよそ200年です。浄土思想を英語で発信するということは、長い歴史を持つ日本の仏教理解を、新しい西欧仏教学の枠組みに適合させる営みにもなります。どう翻訳すべきか、異なる文化の読者にどう伝えるべきか、日本の仏教者は戦略を練り、悩み、試行錯誤を重ねたのです。
異文化間の複雑な相互交流とダイナミズムに魅せられた事が、私の学術的な原点です。人間は異質なものに遭遇した際、二つの反応を示す傾向があります。一つ目は、異質な世界を持つものに対する拒絶反応です。これは具体的には、その存在を無視するか、あるいは批判的態度を取る形で表れます。二つ目は、その異質さを理解しようとする姿勢です。明治・大正時代の翻訳者たちの中には、こうした相反する二つの反応が、同時に共存していました。このような葛藤を抱えながら活動した翻訳者たちの言葉に魅せられ、この分野を選びました。