- 教員氏名
- 高木 彬 講師
- 専門分野
- 日本近現代文学、建築空間表象
文学のなかに建築や都市がどのように描かれているかを研究しています。たとえば、関東大震災(1923年9月)の復興期にあたる1920年代は、日本の近代化が大きく加速した時期です。当時の文学には、そこで広がりつつあった新しいタイプの建築や都市が、人々にどのように捉えられていたのかが濃密に描きこまれています。それを読むことは、現代の私たちが経験している日常の空間を見つめ直すためのヒントにもなると考えています。
「猫を飼っているひとなら誰でも、猫の方が人間よりもずっと巧く家に住んでいると言うだろうが、まことにもっともな意見である。寒々しいほど角張った空間の中でも、連中は隅っこに落ち着ける場所を見つけだすものだ。」──これは、寒々しい「空間」が愛着のある「(居)場所」となることについて語った、ある小説家の言葉です。たしかに、「場所」については建築の図面よりも、文学のほうが多くを語ってくれるようです。「空間」から「場所」への変化、「場所」の質感、そうしたものを描き出せるところに、文学のおもしろみがあると感じています。
高専・大学の頃は建築設計を学んでいました。しかし、建築の先生に手渡された小説、友人の図面に投げかけられた先生の講評、そうしたいくつかの言葉が、製図板に向かう日々に決定的な影響を与えました。図面に描けないもの、しかし本当はその余白にあるはずのものへと目が向きはじめたのは、その頃です。